JAMさんの気象教室| アルファーアビエィション

JAMさんの気象教室

JAMさんの気象教室
JAMさんに聞いてみよう!のコーナーです。

突然ですが、アルファーアビエィションの訓練生からこんな質問が出てますよ。

Q1 雲の高さはどうやって調べれば良いですか?
Q2 関東が(下妻が)雪になるかどうかの判断はなにでわかりますか?
Q3 冬の西高東低の気圧配置の時に、昼間は北西風がビュンビュン吹いてるのに、夜になると全く風が無くなる事があるのは何故ですか?

JAMさん、お願いします。

 は~い、おはようございます。アルファーの生徒さん、今日も飛行練習ですか?
気象屋のJAMです。なぜ、JAMかって? 少しならびを変えると、Japan Meteorological Agency になるでしょ?ま、スペルが難しいから、通称JAMにしてます。

Q1 雲の高さはどうやって調べれば良いですか?
 さて、朝からQが出されました。今日の雲の高さ教えてください・・・・ですか。う~ん、まずは 自分で情報収集してるかな? 飛行領域の天気図・天気予報(天気変化、風変化)、気象衛星の写真くらいは、毎朝見てるよね。見てなかったらざっとスマホ、タブレットなどで確認してね。
 で質問は、雲の高さということなんで、まずは衛星画像。天気予報では24時間ぐらい前から赤外線で撮影した画像を見せてくれる。低温を白、高温を黒であらわしているから、高高度の雲が白く写る、低高度の雲は高さが低いほど黒い。その白黒階調と温度の関係は・・・真黒が25℃以上 真白が-76℃未満、その間を灰色の濃淡であらわしています。その濃淡の階調設定は、通信データ量で制限されるので、オリジナルは1024階調だが、場合によっては16階調くらいで表示されている。なかなかヘリコプタや飛行機の飛行高度や温度帯の雲を見分けることはむずかしいが、天気図と比較すると、高気圧・低気圧よりも細かい天気の変があることがわかる。実際に自分で飛行プランニングをするには、たくさん資料を見て予想を組むことになるんだけど….。
 最初からそこまでは無理だから、エマグラムに「雲層」がどう反映しているか、実況とエマグラムを対比する視点で説明しておきます。

エマグラフで雲の高さを知るには?(生徒用)
 実況のエマグラムは ラジオゾンデ観測で書かれている。直近地点は筑波研究学園都市にある。下妻から割と近いのでほぼ下妻運航所の実況と考えていい。(気象学習条件に恵まれてるね。)
 筑波研究学園都市の館野(たての:地点コード47646)は覚えてほしい。実際のエマグラムは地点番号などで示される。ワイオミング大学のエマグラムや、気象庁の航空気象情報提供システムMetAir、その他のページで見るときに、何処のデータかわからないと始まらんから。もちろん、これからの天気に影響する風上側地点も確認できればベター。

<雲がある層の判定>
 雲の層を目算たてるんだったら、当然“湿っている”層を探すことになる。大気の成層状態は1地点につき2本の折れ線であらわされる。
 1本目:観測された「気温と気圧」を順々に上空へ結んでいった線、多くの場合実線。
 2本目:同様に「露点温度と気圧」を順々に上空へ結んでいった線、多くの場合点線。
(※注 この2本の線を大気の状態曲線という。エマグラムは縦軸は気圧の対数座標にしています。
その利点は、実際の大気の厚さをイメージしやすいようにしたためです。測高公式を覚えてますか?
エマグラムの記入用紙は、気温一定ならば 高さは気圧の対数に定数を掛ければ求まるという関係がイメージできるような図表なのです。)
 「湿っている」ということは、図では2本の線が接近していることであらわされる。ざっと見て、感覚的にわかると思うが、気温と露点温度の幅が3度より狭いようだと「雲層」の高さと判別する。

<晴天日の日中に雲が生成する層の判定>
 これは、地上の気温と露点温度から LCLの高さを検討しておくことになる。どうやって求めるかって?それは、すでに書いてあるページがあるので、読んでくださいね。なお、積雲が発達して、雄大積雲や積乱雲になるかどうかは、LCLの高さが低かったり、LCLに達した後に気塊は湿潤断熱線をたどることになるので、「1本目」の状態曲線の右(高いほう)に出てしまうようだと、その危険が高い。
 LCL:(Lifting Condensation Level ※註 空気塊が上昇して気温が下がり、気温と露点温度が同じになり空気中の水蒸気が凝結したときの高度。持ち上げ凝結高度という)

<雲ができやすい高さの判定>
エマグラムに風向風速が書いてある時には、風の向きが変わっている高さ、同じ風向でも急に増速している高さなどの注意が必要。これらのところには、大気の“潮目”があって、前線につながる雲の層が入っている可能性がある。

Q2 関東の雪の予測方法(パイロットが判断するには)
 パイロットが…などという特殊な方法はありません。
 関東(下妻)で、気温が+2.5~3℃のラインで考えると、雨、みぞれ、雪の可能性は、ほぼ3分の1ずつの確率です。グラフをそのまま見ると、雪7割、みぞれ1割、雨2割のように感じられますが、湿度が低いほうは、そもそも降水がある可能性が低いので、その範囲で降る可能性が低いためです。
 下妻で 風向と湿度の関係をみると、西-北風:湿度が低いケースが多い。東風:関東の海上からの風で湿度がやや高い。南-南西:気温が高めの湿潤空気が入る。
 これらから、3℃の気温が予想通りであるならば、風向きにより、それぞれ、雪の可能性が高い、みぞれの可能性が高い、雨の可能性が高い・・・・といえるかどうか。
 なお、上の説明では気温を固定して説明しましたが、上空からの降水が途中で蒸発して気温を下げる効果などもありますので、前日などでも雨雪の判断は相当に難しく、一方雪となった場合の関東地方の対処能力は極めて未熟なため、可能性を謳って注意喚起を行うことになる。

 3℃の縦線上で、雪とみぞれの境目が 湿度70%のところに、みぞれと雨の境目が80%のところにあります。

 「雨」と判断する範囲は 湿度100%から湿度80% その範囲は100-80=20なので、20%の幅
「みぞれ」と判断する範囲は湿度70%から80%で、その範囲は80-70=10なので10%の幅
「雪」と判断する範囲は 70%よりひくい湿度で、範囲を求めると70-0=70なので、70%の幅
になる。
この比率 20:10:70=2割:1割:7割。
 降水の有無が、湿度と関係ないならば 生起確率はこのようになる。

<高湿度と降水は関係している>
 あたりまえのこととして、湿度が高い場合に降水の可能性が高い。
 これを、実証するために、宇都宮のある冬の12月1日から3月31日までの毎時の資料(N=2904)から、毎時の気温5度未満で降水ありのデータ数を求めると233回。
内訳は、湿度100~90%の範囲で83回、90~80%の範囲で100回、80~70%の範囲で34回、70%未満16回降水があった。
この比率を加味して、比率としてみると、降水の3態の雨:みぞれ:雪=およそ1:1:1。

<雪の判断>
関東
3時間前の予測だとすれば、
天候:上空曇り。気温3℃。
降水短時間予報を確認して、弱い降水域(注)がかかるかどうかを見る。
地上の空気:割と乾いているようなら、また風:陸⇒海の向きに風が吹いてるなら、雪の可能性を高めて考える
てなところかな。 降水予報が発表になっている時間帯で、気温が3℃以下なら、雪になるものと思ってください。
なお、これすべて“地上”の話、300フィート上では雪という状態もまああります。
気温3℃、降水有、低シーリングだったら飛ばさないでしょうけどね。

(注)降水エコーはあるが、地上雨量計で雨量が観測されない場合は 弱い降水と解析される。
すなわち、大気の下層が比較的乾いているという状態の表れであることがある。
 また、レーダー観測に雨雪の融解層の影響で、レーダー波の反射が一部強く見えることがある。一定の高さに生じるため、レーダーの生の画像に、レーダー観測点を中心とした円形のパターンが見えることがある。この場合上空≒雪、下は雨。(柏市に東京レーダーがある。)

北海道
北海道での雪の判断は、このような微妙な天気変化でなく、低気圧や前線の影響で関東よりも明解にわかりやすく天気が変わると思います

Q3 冬の西高東低の気圧配置の時に、昼間は北西風がビュンビュン吹いてるのに、夜になると全く風が無くなる事があるのは何故ですか?
 冬という季節にも、また西高東低の気圧配置に限ったものではありません。地上風は、晴天日には、夜間は日中に比べ弱まることが多いです。
 晴天日日中は、地球放射に勝って、太陽放射が地面を温め、そして大気は下から温められます。大気成層は下から中立になりますから、やや上空の風が地上付近にも達します。これによってGUSTもありますね。晴天日夜には 地面から放射冷却が起きます。風があってもなくても、地球放射は起きており、そして大気は下から冷されます。地上付近の大気の安定度が増していきます。初冬のいわゆる初霜・氷が観測されるような日は、地面付近は氷点下(霜、結氷)、気温を測る1.5mぐらいの高さで3度くらいの気温のこともあり、超安定成層になることがあります。湿度が高い場合に、地霧が発生することもあります。
 こうなると、地面付近は安定成層の中に保護される状況になり、地上風が止まります。朝09時のエマグラムにもそのような逆転層が観測されることがあります。(夏でもあります。)
 実際には、吹いている風が安定成層の生成を壊し続けるため、風が止まるまでに至らないことも多いですが、安定度が増すために、やや上空の風が地上に達するケースが減り、日中に比べ相対的に風は弱まります。

 ことわざというのでしょうか、『秋風と夫婦喧嘩は日が入りゃ止む』というものもあります。

JAMさん、どうもありがとうございました。
訓練生たちはもちろん、教官たちもとても参考になりました。
また気象でわからない事があれば、質問しますのでお願いしま~す。

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