航空豆知識#208 ジェット気流
アルファーアビエィションの飛行機とヘリコプターの飛行教官、整備士がお届けする大好評でためになる航空豆知識。今回は当校の飛行機操縦教官がお届けします。
ジェット気流
⻄⾏きと東行きで所要時間が違う?<搭載燃料に注意、冬場の飛行>
冬場の飛行で気を付けなければいけないことは多々ありますが、その中の一つがジェット気流です。一般に冬季には日本列島の上空にジェット気流が流れており、その最大風速は200ノット(103m毎秒、時速に直すと370km)以上にも及ぶこともあります。風速だけを聞いてもピンとこない方もいらっしゃるので、定期航空便の時刻表を確認してみましょう。
羽田、福岡空港間の冬場のダイヤを確認すると各社とも、羽田→福岡(⻄行き)は1時間55分から2時間10分、福岡→羽田(東行き)は概ね1時間30分から1時間35分となっています。出発時間帯などにより多少の差異はありますが、各社とも⻄⾏き、東行きの飛行方向により概ね30分の違いが出ています。その最も大きな理由がジェット気流(風による影響)なのです。
羽田空港と福岡空港の直線距離は約477NM(883km)です。実際の航空機は直線距離を飛行するわけではないですが、ここでは上昇/降下速度や経路の違いは考慮しないこととして計算します。飛行する航空機の真対気速度(TAS)が450kt(時速833km)のとき、無風であれば対地速度(GS)は450kt(時速833km)となり、477NM(883k m)を飛行するのに必要な所要時間(ETE)は1時間3分です。このとき⻄向きの飛行方向と全く同じ方位からジェット気流が100kt(51m毎秒、時速185km)吹いていたと仮定します。⻄向きでは対地速度(GS)は350kt(時速648km)となり、所要時間は1時間22分、東向きでは対地速度(GS)は550kt(時速1019km)となり、所要時 間は52分となるため、飛行方向により30分の違いがあることがわかります。このように飛行コースによって往路と復路の飛行時間に大きな差があるのが冬場の飛行なのです。上記の例ではジェット気流を用いて説明していますが、比較的低い高度帯においても冬場は強い季節風が卓越していることから同様に飛行方向の東⻄で飛行時間の違いが発生します。
飛行時間が違えば消費する燃料の量も違ってきます。その他にも予想した風向風速と実際の風向風速が大きく違った場合、管制指示等により不利な条件の高度を飛行する場合、悪天域、着氷域や乱気流を避けるために予定と違った飛行高度を選定した場合などはより一層燃料が必要になります。小型機の東⻄⽅向の飛行では⻄向きの時のみ燃料補給のため経由地での着陸が必要なこともあります。飛行ログに磁針路(CH)や所要時間(ETE)などの他に所要燃料の欄があるのはこのためともいえます。各変針点もしくは1時間おきなどに燃料計を確認して残燃料から今まで使用した燃料を計算し、それが計画(飛行ログ)と一致しているかを確認しながら飛行する必要があります。もしも予定よりも使用燃料が多い場合は目的地にたどり着かない(または到着時の予備燃料が不足する)ことになりかねません。また明らかに残燃料量がおかしい場合は計器自体の故障や燃料漏れなども疑われます。
一般に燃料満タンで出発することの多い小型機ではありますが、搭乗員の数や積載荷物によっては最大離陸重量の制限から搭載燃料を少なくして出発することもあります。出発前には十分な天候予察としっかりした飛行計画で安全に飛行していきましょう。