飛行機整備士が語る、スベらないお話 PartⅡ
アルファーアビエィションのベテラン飛行機整備士がお教えするタイヤに関するとてもおもしろい知識、その続編をお届けします。
題して「飛行機整備士が語る、スベらないお話 PartⅡ-受験シーズン真っ只中」。
しっかり勉強しましょう。
★前回のおさらい
自動車のタイヤの溝、トレッドパターンには、大きく分けると4つの基本パターンがあり、組み合わせて用途にあったタイヤが作られます。
F1レーシングカーのタイヤは接地面積を上げて滑らなくするため溝がなく、ツルツルのタイヤを使用しています。但し、雨天時は、溝のある雨天専用タイヤを使用します。
飛行機は大型旅客機も含めて縦方向に直線のみの簡単なトレッドパターンで、水を排出する機能は持っていません。その代わり、滑走路に溝を切り、雨天時の水の排出を行っています。
★それでは、お待たせしました。続きをどうぞ。
E.「飛行機のタイヤに溝は必要なの?」
その前に一般的タイヤの構造を確認いたしましょう。
1.「ブレーカーコード」
接地面の強度を増し、異物の貫通を防止する。スチールワイヤーを編んでベルト状に構成されている。
2.「カーカスコード」
タイヤ構造を保持し、タイヤの骨格の役割を持つ。
3.「ビード」
タイヤ内周のホイールリム(4)に接する部分。
タイヤをホイールに固定し駆動力を伝えるとともに、空気が漏れないようにシールする。また内部にはビードワイヤーと呼ばれるスチール製のワイヤーを内包している。
4.「ホイールリム」
タイヤとこのホイールリムとの間に空気を保持する。
5.「トレッド」
主に路面に接する部分。表面にはグルーブと呼ばれる溝が彫られているのが一般的である。
トレッドに彫られた溝の模様は製品ごとに異なり、トレッドパターンと呼ばれる。グルーブには、トレッドと路面の間に入った水を排出してスリップを防止したり、操舵性や乗り心地を向上させるといった役割がある。
6.「サイドウォール」
タイヤの側面。メーカー名やサイズなどが表示されて(刻まれて)いる。
路面には接しないが、走行中は路面の凸凹に対応する為に、激しく屈伸している。
最も薄い部分であり、ここを傷付けると修理が効かず交換が必要となる。また、最も動く場所でもあり、乗り心地にも影響し、クラック(細かい亀裂)も入りやすいデリケートな場所でもある。
一般的構造を確認したところで、タイヤの溝の主目的、雨天時の水の排出機能は飛行機には必要がなく、操舵性や乗り心地向上もそれほど必要としていません。
F1タイヤと同じ溝無しタイヤを使用してもよいのですが問題がひとつ発生します。
F1タイヤは1レースまたは、途中でタイヤを交換して廃棄(または、リトレッド)されます。
飛行機のタイヤを毎回交換することはできません。
溝無しタイヤだと、見た目ではどのくらい摩耗したかが解らず、使用し続けるとタイヤの強度を司る、1のブレーカーコード、2のカーカスコードに傷を付けてしまう恐れがあります。
飛行機のタイヤは、着陸接地時の強度を最重要と考えて作られています。つまり、タイヤの強度を司るコード類
には絶対に傷を付けてはいけません。
使用タイヤによって、溝の底から各コードまでの、距離は決まっています。
例えば、5のトレッド部にキズがある場合は表面からのキズの深さを測り、表面から溝までの距離を引いて、溝
底からのキズ深さが、コード類に達していないかを判断します。
タイヤの摩耗の目安としては、タイヤの溝で判断します。溝が少しでもあればタイヤの強度は保証できるので、使用上何の問題もありません。
極端に言うとツルツルになるまで使用してもかまわないのですが、溝がなくなると、それ以降、どのくらい摩耗したかが
解らないので、溝がなくなった時点で交換すべきです。
F.「 パイロットから、タイヤの溝が減って滑りやすいので交換してほしい、と言われたら!」
溝が無くなると、接地面積が増え、反対に滑り難くなり、タイヤの温度が上がり気味になります。
タイヤが滑りやすくなったからではなく、溝が無くなるとそれ以降のタイヤの摩耗量が解らず、使用中の強度が保証できなくなるので交換するのです。
「結論」…飛行機タイヤの溝は、タイヤの強度を保証するために必要です。
いかがでしたか、とても勉強になりますね。
アルファーアビエィションの航空豆知識、次回もお楽しみに。