エマグラム| アルファーアビエィション

エマグラム

まずは大気の鉛直方向の構造を学習するのが楽ではないかと筆者は考えた。
天気の予想に関することはあとでゆっくり記述することにして、インターネット講義をエマグラムから初めていく。

1 エマグラムの構造

 この台紙は、高層観測データを記入するための用紙である。最近は計算機処理が主流となり、用紙そのものに注目することがなくなってきた。しかし、この用紙に記入されている各種の線は非常に意味がある。

 計算機処理でこれらの線が記入されていない場合、人間に与える情報はあいまいなものになってしまう。計算機処理で速くてきれいでも、その結果を読みとる基準線が無ければ、図の意味は無いに等しい。プログラム作成者・利用者ともに注意すべきである。基本となる「線」の通過点を自分なりに把握しておく必要がある。

 各種の線について説明していこう。横軸は、等間隔に気温(℃)が、縦軸には対数尺で気圧(hPa)が記載されている。原図は(mb)となっているが、これは図が古いためである。(注1)

 次に 斜交する各線について、説明しよう。AA線やそれと平行な黄緑色の各線を乾燥断熱線という。 この線は雲を含まない空気塊が上昇したり下降したりする場合に束縛されている気圧と気温の関係を示している。外から熱を加えない限り、空気はこの線をはずれて気圧と気温がバラバラに変化することはない。BB線とそれにやや平行な茶色線を湿潤断熱線という。この線は、雲を含む空気塊が上昇するときに束縛されている気圧と気温の関係を示している。この線は、気圧が下がると気温が下がる気温が下がると、飽和している水蒸気が水に変化する 。水蒸気が水に変化するとき周りに熱を放出する。すると周りの空気塊は暖められる。という4つの過程が瞬時にバランスしているとしたときの気圧と気温の変化率を示す線である。

 CC線とそれに平行な茶色線は、AAに沿って空気塊が動いているとき、水蒸気の分量は変わらないという特性を示す線である。これを等混合比線という。マークしてあるCC線には「20」と記入されているが、この数字は、水蒸気を全く別に考えた場合の空気1kgあたりに含まれる水蒸気の量が20gであることを示している。

2 フェーン現象の説明(エマグラムの理解のために)

 エマグラムの使い方を理解するために、単純に、ある空気塊が山を越える過程を考えてみることにする。山の風上側で、気圧1000hPa(標高0mとしよう)、気温T=20℃、露点温度Td=12℃の空気塊を考える。越えていく山の高さを3000m級(気圧表現で700hPa)と仮定しよう。

 まず、エマグラム上にこの空気塊の初期状態をマークしよう。この空気塊はの状態は気圧1000hPa線上に気温及び露点温度の2つの点で示される。一般に「湿度**%」という場合があるがその数字はこの2点の乗っている各CC線の値の比のことである。気温20℃のの空気が最大で含み得る水蒸気(湿度100%ということ、すなわち気温=露点温度)の量は、このポイントを通っている等混合比線の値でわかる。図から15g/kgと読みとれる。実際に含んでいる水蒸気量は、露点温度から知れる。図から9g/kgと読みとれる。このわり二つの数字のわり算で相対湿度が求められる。ここでは9/15=60%である。

 さて、山を登っていく過程を考えよう。空気は飽和する(雲ができるようになる)までの間は、「標高100m上るごとに約1度気温が下がる」といわれている。これはエマグラム上では乾燥断熱線(AA線)に沿って空気塊の気温が変化することを言っている。水蒸気の新たな供給や遺失がないとすると、水蒸気の分量は変わらない。しかし、空気全体は上昇により気圧が低下するので、水蒸気の圧力もそれにつれて若干下がる。CC線がやや傾いているのはそのためである。このまま上昇するとどうなるであろうか?気温の低下の方が著しいため、この2本の線はクロスする。この例では約885hPa約10℃で飽和する。図中にはLとマークしてあるが、このポイントを持ち上げ凝結高度(LCL:Lifting Condensation Level)という。

 飽和したあと、さらに上昇する場合、水蒸気(気体:見えない)が水(液体:雲:見える)になることにより、熱が発生するため、気温の低下は押さえられる。「湿潤空気は標高100m上がるごとに0.5-0.8℃気温が下がる」といわれているがこれはエマグラム上では湿潤断熱線(BB線)に沿って変化することを言っている。なお、数字に幅があるのはBB線の傾きが気温によって違うこと(高いほど小さい、低いほど乾燥断熱減率に近づく)による。なお、BB線はかなり間引いて引いてあるが、点Lを始点にして、周囲の BB線を参考になめらかに湿潤断熱線を引く。このLから山の頂上までの過程が、山の風上側をはい上がる雲の生成過程りを示している。

 山頂に達したとしよう。成層が安定であれば、気塊はこれからは山を下る。山を下る過程は、乾燥断熱線及び等混合比線に沿って下ることになる。結果、山の風下の標高0mに下がったときの気温や露点温度は□マークで示されたところとなる。気温約29度、湿度は二つの□マークが乗っている等混合比線の値の比を使って、5.5/27=20%となり、いわゆるフェーン現象による気温の上昇と湿度低下の過程が説明できる。(注2)

3 大気の安定/不安定(S.S.I)

安定/不安定とは簡単には上図の考え方である。

 図中で、黒四角で示した気温は周囲の成層状況を示す。丸で風船のように示した気塊を微少量(ここでは仮に100m高度を上昇/下降させたときに起きる温度変化をみている。ここでは原理的説明であるから、乾燥空気でしかも1度/100mの変化としてある。これは左右同じである。違いは、周囲の成層状況。左は温度変化がゆるい。右は温度変化がきつい。左は、100m上昇した気塊は周囲の空気より温度が低い(すなわち密度が高い。重い)ので押し戻される。右は、100m上昇した気塊は周囲の空気より温度が高い(すなわち密度が低い。軽い)ので、浮力が生じてさらに上昇することになる

 水蒸気の存在を考えるとどうなるであろうか? 前項では、ある一つの空気塊を上げたり下げたりしたときに起きる変化をエマグラム上で示した。次に大気の安定度について考えてみよう。簡単にするために、二つの空気塊a、b を考えることにする。そして、ここでは「不安定とはさらに対流現象を促進するような状態をさす」と定義する。第2項において、山の風上側の空気を、700hPaまで持ち上げた時のその空気塊(a)の気温は、ほぼ0℃と読みとれる。もともと700hPa面に存在した空気の温度(b)と比較することによって、安定か不安定かが言える。その指標は温度差b-aである。理論上はb-a>0は安定、b-a<0は不安定である。なぜか?気圧が同じ場合、温度の高い空気のほうが軽いからである。下から持ち上げてきた空気aのほうが温度が高ければ、この700hPa面を通り抜け、さらに上昇することになる。逆に第2項のように、aの空気塊に下降させるような力を加える条件は、安定(すなわちb-a>0)である必要がある。

 上の図は、フェーンの説明であったので、持ち上げ始める空気塊を1000hPaにしたが、積雲や雷雲の発達を簡易的に判断するためには、S.S.I.(Showalter stability index)が一般的である。高層気象観測から得られた(あるいは数値予報資料から得られた)850hPa、及び500hPa面の資料を使用して、850hPa面の空気塊を500hPaまで持ち上げた場合の温度(a)と、もともとの500hPa面の温度(b)との差(b-a)をSSIと呼ぶ。

 筆者は、SSI=+3以下は雷雨や対流現象に注意を向けている。さらにssiがマイナス値になるようであれば、警戒したほうが良いと考えている。理論上は+は安定、-は不安定であるが、観測や予報の誤差や、対流現象自身が空気混合をするなど、現実はエマグラムの線に乗った変化だけでないことに注意をしたい。また、この指数は上下2面から得られるだけの数値であり、中途の層の状況は、無視していることに注意してほしい。指数は状況のoutlook(概観)の役には立つが全層に渡って安定だとは言っていないので、次の項のように、状態曲線は少なくとも一見することはしてほしい。

(注1)気圧の単位:平成4年11月気圧の単位がミリバール(mb)からヘクトパスカル(hPa)に変更された。これは圧力の国際単位のPa(1Pa=1N/㎡)を使用して表すことにしたものである。hは100倍を示す記号であるが、これは従来からの表記たとえば1013mbの位取りの変化を避けるために加えてある。なお、航空においては、気圧を表す単位としてインチも使用されている。


(注2)風上側斜面での凝結(降水)現象がなくても、 一般に「フェーン現象」という用語で説明されることがある。高いところから低いところへ空気が移動する場合は100mにつき約1度気温が上昇する。すなわち上の図の中で上空の空気塊が山を下る過程のみでも、山の風下での高温現象は発生する。

ここでエマグラム用紙のダウンロードができます。スクロールしてくれただけでも感謝!ただし500KBですので容量・所要時間等ご注ください。なお、個人的利用に限ります。印刷・配布は禁止です。

記入に使うことを前提としていますので、薄い色使いになっています。

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